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難関資格の取得はなんのため? 「ビル管理士」を取得したモチベが全く違う2人の話
担当業務のため、自分のキャリアアップのため、資格取得のモチベーションは人それぞれです。
難関資格ともなれば、自分の可能性をグッと広げることもできますが、もちろん簡単に合格できるとは限りません。
それでも合格のためにモチベーションを維持し続けるには、自分なりの“思い”、“志”を明確に持っていることが、一つのカギになるのかもしれません。
「建築物環境衛生管理技術者」、通称「ビル管理士」は、ビル管理の最高峰として知られる資格の一つです。
一定規模以上の建築物の維持管理には、必ずビル管理士を選任し、監督をすることが法律で定められています。
そのため、ビル管理士には、設備だけでなく建物全体の管理に係る知識が求められ、さらに受験にあたっては2年以上の実務経験が必須。独学では300時間程度の学習が必要と言われ、合格率10~20%程度です。
建物メンテナンス業務に従事する2人の社員が、このビル管理士の資格試験を受験し、合格しました。
同じ会社に所属する2人ですが、業務も違えば、モチベーションも違う。
でも、一つ共通していたのが、自分なりの“思い”、“志”が明確であることでした。
【今回の社員】
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シナネンアクシア 茨城支店 管理部 管理チーム長 新井 浩志(左)
小売店業界に25年ほど勤めた後、2017年にタカラビルメン(現・シナネンアクシア)入社。人事・総務関連業務を担当。2020年に異動し、ビル・病院の清掃の業務現場統括を1年担当。その後、運営サポート部に異動し、2年ほど現場のサポートを幅広く担当。2022年10月に管理部に異動し、人事・総務関連業務の担当に戻り、2023年10月のシナネンアクシア発足以降、現職。
シナネンアクシア 茨城支店 BM事業部 宇都宮チーム 升岡 淳志(右)
2022年にシナネンアクシアに入社。研修を経て、栃木県済生会宇都宮病院様における受託業務の責任者候補として、同病院での業務に従事。2023年2月から同病院におけるシナネンアクシアの責任者に就任。
■社員に受けてもらうにはまず自分から
―ビル管理士を取得しようと思ったきっかけは?
新井:私の場合、総務・人事系の業務担当なので、実務に生かすため、というわけではありません。組織全体で、ビル管理士を増やすためのきっかけをつくりたい、という思いからでした。
―どうしてビル管理士を増やそうと?
新井:一定規模以上の建物については、管理責任者としてビル管理士を置くことが法律で義務付けられているんですね。うちは色々な建物の清掃とか、設備の保守とか、そういう維持・管理を広く受託している会社なので、当然、ビル管理士が必要な管理物件もあります。会社の規模が大きくなる中で、これから大きな建物の管理受託も増えていくことが見込まれるので、ビル管理士の資格取得者を増やすことは喫緊の課題だったんです。
―なるほど。有資格者を増やす必要があることはわかりますが、なぜ新井さんが自ら取得を?
新井:実は、過去にも資格取得者を増やそうと試みた時期もあったんですが、そのときはほとんど合格者が出なくて、みんな及び腰になっていたんです。だから、私が自ら取得して、みんなにも“やればできる”ということを示すのが、一番手っ取り早いと思ったんですよね。どういう勉強方法をして、試験でどういうポイントを抑えたらいいか、とか。そういうことを自ら体験して伝えられたらと思って、受験することにしました。
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私はもう60歳で、試験に落ちたところで恥もへったくれもないんですけど(笑)、せっかくならみんなで一緒に受験しましょうと社内で呼びかけて、手を挙げてくれたのが升岡さんでした。
―升岡さんはどうして受験することに?
升岡:もともと興味はあったので、新井さんの呼びかけもあって、じゃあこの機会にと思って受験することにしました。前職で営業職を担当していたんですが、専門職に就きたいと思って、シナネンアクシアに入社しました。普段は、栃木県済生会宇都宮病院様から当社が請け負っている清掃や雑役業務の責任者を担当しています。ただ、入社してまだ3年なので、先輩方と比較すると経験値ではかないません。ビル管理士のような資格を取得することで、専門性を高めたかったですし、それが自分の自信にもつながると思っていました。
―専門性を高めることに関心があったと。
升岡:はい。この仕事に就いて思ったのは、こういう建物のメンテナンス業って、様々な専門知識や経験から成り立っているということです。清掃業務一つとっても、ビルクリーニング技能士という資格があったりして、それだけ幅広く、奥深いんです。だから、入社以来、年に1つは新しい資格を取得してきていて、2024年はビル管理士にチャレンジすることにしました。
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新井:専門性を示すうえでも資格ってすごく大事な役割があるんですよ。同じお酒を勧めてもらうにしても、ただ店員さんに勧められるより、ソムリエの人に勧めてもらうほうが納得感はありますよね。同じ品質のサービスを受けるにしても、その品質を裏打ちする資格の有無で印象が変わるということです。私たちにとって、資格を取得して専門性を高めるっていうことは、自分自身のキャリアやスキルアップのためにもなるんですが、何よりお客様のためにもなるという意味合いも強いんです。
■自分に無理なく勉強を習慣化させる方法
―ビル管理士の資格取得には、独学なら300時間以上の勉強時間は必要と言われているそうですが、勉強時間を確保するだけでも大変だったのでは?
新井:勉強の期間としては4カ月くらいでした。公式のテキストと過去問集があるので、毎晩、寝る前に30分は時間をつくって、どちらも読みましたね。テキストは5回、過去問集は2回だったかなと。あとは、通勤とかの隙間時間にYouTubeを活用しました。過去問の解説動画とか、試験に関する建築系の知識に関する動画とか、調べると色々出てくるんですよね。電車に乗るたびに知識が一つ増えていくような感覚でした。
升岡:私も期間は同じくらいですね。テキストは1回くらいで、あとは過去問集を中心に勉強しました。平日は仕事が終わって家で1、2時間くらい。休みの日は、6時間くらいがっつりやりましたね。最初のうちは全然、過去問も解けなかったんですけど、解説を読んで勉強するうちに知識もついてきて、4周くらいしたときにはほとんど解けるようになっていました。
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―毎日ちゃんと時間を確保していたと。
新井:ビル管理士の試験は、とにかく試験科目が多いんです。実務ですべてを経験している方は滅多にいないんじゃないかな。だから、ある科目は得意でも、別の科目は全くの素人だったりするので、知らないことをゼロから地道に学ぶ姿勢は大事だと思いました。
升岡:私もそう思います。平日は晩酌しながら過去問を読む日もありましたけど(笑)、ちゃんと勉強を習慣化することを優先しました。休日は趣味の時間もつくれなかったですけど、受験までの4カ月はやり切るしかないなと。正直、一発合格しないと、もう1年、自分のモチベーションを維持するのは大変だと思いました。
新井:そうかもしれないね。逆に、あきらめずにちゃんと勉強すれば受かる資格でもあると思います。私たちは4カ月に詰め込んでやりましたけど、もちろん1年がかりで準備すれば普段の生活への影響を抑えながら、勉強できるはずです。
■この資格取得を、社内の風潮を変えるきっかけに
―実際に資格を取得してみて何か変化はありましたか?
升岡:社内の反響が大きかったですね。色々な方から声をかけていただきました。
新井:それが一番大きいかもね。私たちの合格が社内でも周知されたことで、「やればできる」ってことを示すことができました。今回は挑戦して幸い合格できましたが、失敗したとしても経験が残ります。挑戦さえしなければ後悔しか残りません。ビル管理士の資格取得に、及び腰になっていた社員の背中を押すきっかけになれば嬉しいですね。
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―実務面への影響は?
升岡:そうですね、学んだ知識が実務でも活きています。作業の正しいやり方とか、その作業が何のために必要なのかとか、業務内ではカバーしきれない知識が得られた実感があります。今まで経験がなかった業務の知識についても学ぶことができたので、もっと自分の業務の幅も広げてみたいと思うようになりましたね。
新井:資格取得は体系的に学べるのが良いんですよね。実務に携わっていると、普段の業務と、学んだ知識とが紐づいてきて、より業務に対する理解も深まっていくと思います。資格が邪魔になることは絶対にないので、興味がある資格にはチャレンジしてみて損はないです。
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―気持ちの面での変化はどうですか?
升岡:個人的には、自分に自信が持てるようになりました。これからまた新しい資格も取得してみたいと、前向きな気持ちもあります。
新井:お~いいね! ビル管理士もそうなんですが、資格を取得することで、また新しい資格の取得要件を満たせることもあります。チャレンジの幅はどんどん広がっていくんですよね。そうやって資格取得者を数多く抱えていることが、会社としての信用や価値を高めることにもつながっていきます。
―最後に、今後の目標を!
新井:若い社員に背中を見せるつもりでビル管理士の資格取得にチャレンジしたら、升岡さんも一緒に合格し、社内の機運は高められたと思います。この経験談を伝えていくのが、私の一番の役目だと思っています。試験を受ける前に諦めるくらいなら、当たって砕けろでやってみようと。60歳の自分が受かったからこそ声を大にして伝えていきたいです。
升岡:自分にとって少し高い壁かなと思うことでも積極的にチャレンジしていきたいですね。それが自分にとっても、会社にとっても、幅を広げ、プラスになることだと、今回実感できたので。すでにいくつか目星をつけている資格もあるので、今年も何らか資格取得には挑みたいと思っています。
新井:ちょっと乱暴な言い方かもしれないですけど、私たちのような建物メンテナンス、つまりサービス業の会社にとっては、社員が商品とも言えます。サービス業の品質は、サービスを提供する人にかかっているからです。一人ひとりの成長が、サービスの品質を高め、引いては会社の成長にもつながっていきます。だからこそ、うちにとっては人が財産。社員を何より大切に考えています。
もちろん、私たち2人の資格取得だけで大きな変化が起きるわけではありません。ただ、こうした日々の努力と研鑽の積み重ねによって、個人も会社も一歩ずつ成長していきます。小さな一歩かもしれませんが、今回の資格取得が、みんながチャレンジする背中を押すきっかけになれば嬉しいですね
(終)
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