ベンチャーから老舗企業の人事へ。30歳を前に、私に必要なのは“苦境”だった
新卒で入社した会社を1年で退職。転職した外資系ベンチャー企業で、同社初の人事担当となって、20代後半には中核を担うメンバーに。
充実しているように見える一方で、本当は、ずっと悩んでいたんです。
「自分の選択が正しかったのだろうか?」
「ほかの企業でも通用するのだろうか?」
だからこそ、誰にも相談ができなくて。
私なりに悩み、考え、キャリアを選択してきた結果、今はシナネンホールディングスという歴史ある会社の人事として仕事をしています。
悩みながらも進んできた私のエピソードが、何か皆さんの背中をそっと押せる話になればと思い、お話しさせていただきます。
【今回の社員】
シナネンホールディングス
人事部 人材開発チーム
逸見友江
2015年に大学卒業後、同年4月にIT企業に営業職として入社。1年目から社内表彰を受けるなど実績を残した後、外資系ITベンチャーに転職。同社初の人事専門担当に就任。人事のリーダーを経験した後、2021年にシナネンホールディングスに入社。人材開発チームにて主に新卒採用を担当。
■「今どき夢、語るとかないって」その一言が自分の新しい道へきっかけに
新卒で入社したのは、中堅のIT企業。配属は営業職でした。目標数字に向かって突き進むのが性に合っていたようで、1年目からMVPとして社内表彰も受けました。
でも、1年で退職したんです。
理由は、その会社の空気に染まるのが、こわいと感じてしまったから。
私は広島県出身で、親元を離れて働いていることもあり、「せっかく東京で働いているのだから、何か得ないと!」という気持ちが強くありました。だからこそ、他の人よりも早く成長したいという焦りがあったんです。
辞める覚悟を決めたのは、上司の方との営業まわりの合間、フードコートでうどんを食べていたときです。
オフィス内では、他の人の目が気になって腹を割った話がしにくいので、この機会にと思い切って自分の素直な気持ちを伝えたんです。
うどんをすすり終えた上司の方は、静かに頷きながら話を聞いてくれました。そして、私が想いを伝えると、こう言いました。
あの瞬間は鮮明に覚えています。反論も浮かびませんでした。ただ、その言葉を聞いた瞬間、「こういうアドバイスする人には絶対なりたくない」って、踏ん切りがついていました。
その上司の方は新卒で入社し、マネジメント職に昇格されて、会社からの評価が高いことも知っていました。張り詰めていた私の気持ちを察して、緊張を和らげるために”あえて“ああいう言い方をされていることも理解していました。
でも当時23歳、がむしゃらに成長を求める私にとって、そのアドバイスも、上司としてのスタンスも、受け入れがたいものでした。
社会人1年目にしてだいぶ攻めた決断でしたけど(苦笑)、今でも後悔はしていません。人生の1つのターニングポイントになったことは確かですね。
■求職者に怒られながら、がむしゃらに結果を出していく
2社目に入社したのは、主にAI関連のソリューションを提供する外資系ベンチャー企業です。
営業職で入社したのですが、「これから企業規模を拡大するなかで、採用や研修を担う人事の専任担当がいたらよいのでは」と提案したところ、「じゃあ、逸見さんやって」ということになり(笑)、それからは人事をメインで担当するようになりました。
もちろん前任もいない、教えてくれる先輩もいない、手探り状態でした。採用面接をしても、求職者のほとんどが私より年齢が上なので、お叱りを受けることも多々ありました。
失敗しては学んで、を繰り返すうちに、2年目からは板に付くようになり、3年目からは代表から「採用はすべて逸見さんに任せるよ」と言ってもらえるまでになりました。
4年目以降は、人事担当も増え、最終的には会社の中枢を担うメンバーとして、日々社長とともに仕事をしていました。
実質ゼロからの人事部門の立ち上げから、中核的存在になった一方で、今度はまた違う不安を強く感じるようになりました。
ベンチャー企業1社での人事経験しかない自分に、自信が持てなかったからです。
もしかしたら、ほかの会社では通用しないかもしれない。自分が「井の中の蛙」なんじゃないかと思ったら、不安でたまらなくなってきました。
私がやってきたことは正しかったの?
入社4、5年目のころは、いつも自問自答していました。
そうは言っても社内では“バリバリ働くポジティブウーマン”のように見られ、人事担当として頼られる機会も多かったので、悩んでいる姿は見せられませんでした。
そんな不安と葛藤を抱え続けていても前に進めないので、入社5年目、思い切ってカナダに留学に行かせてもらいました。誰一人として知り合いがいない場所で、自分を見直す時間をつくりたかったからです。
何より力と時間を割いてきた「仕事」というものから一旦離れたことで、フラットにキャリアを考えることができたと思います。実際、結論も至ってシンプルでした。
「自分に足りない経験を、次の職場で補うことでもっと成長したい」
それまでは、ベンチャー企業で0から1をつくることを経験してきました。だから自分に足りないのは、1を10に、10を100や1000にする経験だと気が付いたんです。
そのまま同じ会社に居続けて規模拡大を目指すという選択肢もありましたが、若いうちにできるだけ多くの経験を積みたいという思いもあって、ある程度大きな企業に転職して挑戦したいな、とやっと方向性が決まりました。
■苦境に立たせられるほど、仕事はオモシロイ
転職活動は結構、苦戦しました。ベンチャー1社での人事経験で、転職直前という微妙なタイミングでの留学もあって、書類選考も全然通らない。
いざ書類選考を通過しても、担当の方と話が合うのもベンチャー系が多かったです。「新しい取り組みをどんどんやっていこう!」という雰囲気に惹かれたのも確かでしたし、すんなりと馴染めるだろうという気もしていました。
そんななか選考を受けた企業のうち、最も歴史が長かったのが当社、シナネンホールディングスでした。
今年で94年目。エネルギー業界で安定的に成長してきたものの、脱炭素という流れのなかで、変革期を迎えています。
印象に残ったのは、選考過程で「変革期にある会社の人事部門を支えてほしい」というお話をいただいたこと。
社長が自ら変革を掲げ、社内外にメッセージを発信されていて、会社としての本気度も伝わってきました。
エネルギー業界という自分の経験がない分野。
会社も、業界全体も、本気で変わらないといけない過渡期。
苦境かもしれないけど、そういうときこそ仕事はオモシロイんじゃないかって直感しました。こんな経験は「今しかできない!」と思いましたし、自分のチカラで会社を変えられることにワクワクしました。
入社を決めたときには、この会社で自分がどんな挑戦と成長ができるか、楽しみに思う自分がいました。
■この会社で10→100、100→1000をつくりあげていく
今、在籍している人事部の人材開発チームは、私以外が全員、新卒で当社に入社したプロパーの方です。良くも悪くも、私が一番フラットな目線なので(笑)、業務の進め方や資料の作り方など、気づいたことは積極的に改善を提案させてもらっています。
一つひとつは小さなことでも、自分のアイデアで、大きな会社を動かしていると考えると、すごくやりがいを感じますね。
私がメインで担当しているのは新卒採用です。個人的な人事観を少しお話しすると、採用・入社はあくまでも「スタート」だと思っています。
実際は現場に配属されてからも会社を好きでいてもらえるかどうか、が一番大事なんです。入社時のモチベーションが頂点で、時間とともに落ちて行ってしまう人の方が多い。このモチベーションを教育や成長の観点から高く維持することが、人事担当としての腕の見せ所だと考えています。
ただ、無理に居続けても、本人のためにも、会社のためにもならないこともあります。社員と会社、お互いが成長にとって必要な人材・場所であることが大切です。
かつての私もそうでしたが、キャリアには正しい歩み方があるものだと思っていました。悩んで悩んで、悩み抜いて出た答えは、
「正しい道なんてない。今、見えている少し先を見据えて走れば、それがいつの間にか道になっていく」ということ。
そのときの状況で夢が変わったり、壁にぶち当たって悩んだりすることって普通だと思うんです。どんな決断をしても、今この瞬間に出せるベストを尽くせば、その先には、自分が納得できる未来があると信じています。
今でも、周りの人の活躍を見ると、不安を感じたり、悩んでしまうこともあります。
でも、悩んでいるこの時間も自ら道をつくっている。だから、そのままでいいんだ、と。
かく言う私もまだ20代ですが(笑)、就活やキャリアに悩んでいる方には、エールを送れたらと思います。
(終)
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