どこでも通用する「企業内弁護士」へ。法務という専門職で描くキャリアパス
弁護士と聞くと、法律事務所に所属する弁護士。
法廷で弁論する姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。
でも、私は法律事務所に所属していない、「企業内弁護士」。
企業内弁護士は、企業の一社員として、法律相談、契約書の審査や作成、契約交渉、M&A、組織再編、訴訟等の紛争、コンプライアンス、株主総会対応、法務監査……などなど、企業内のあらゆる法務領域を担う存在です。
弁護士の中でも6.7%程度と、まだまだ割合としては少ないです。
それでも私自身、企業内弁護士という働き方が自分に合っていると思いますし、企業にいるからこその成長のチャンスがあると実感しています。
法律という分野の専門家ではありますが、道の究め方は一つではありません。これは、私なりに弁護士として成長するために選んだ道の一つです。
【今回の社員】
シナネンホールディングス株式会社
法務室
川上 裕子
■20代での成長を求めて─3か月で法律事務所を退所
法律の世界を最初に意識したのは、中学生のとき。
私は当時「国際公務員」という仕事に関心がありました。漠然とですが、海外で働いてみたいなと。今考えれば、グローバルでたくさんの人のために働くことに憧れがあったんだと思います。
担任の先生に相談したところ、「そういう仕事をしたいなら、何か専門分野を持っていたらいいよ」とアドバイスを受けます。
そこで「例えば…」と挙げてもらったのが「法律」でした。この時をきっかけに、法学部への進学、そして法律家という仕事に意識が向き始めました。
そうは言いながらも、実は、美術や建築といった人文社会分野にも関心があり、大学は文学部に進学しました。
「なんで?」と思われるかもしれませんが(笑)、人文社会分野を体系的に学ぶのは大学でしかできないと考えたからなんです。当時は、すでにロースクール制度があったので、大学で自分が学びたい人文社会分野を学んでからでも、法律を学ぶことはできるんじゃないかなと。
幸い、思い描いたとおりに、大学卒業後にロースクールで法律を学び、司法試験・司法修習を経て弁護士の資格を得ることができました。そして、弁護士登録後は法律事務所に入所し、弁護士としてのキャリアをスタートさせました。
ところが、新卒として法律事務所に入所したものの、3カ月で退所を決断したんです。
理由は、企業や社会に対する理解が足りていない自分自身にありました。
ロースクールを卒業して初めて社会に出て、「会社」という組織や仕組みをまったく知らない。いくら専門家だからと言っても、社会に無知な自分が、クライアント企業にアドバイスをしていることに違和感が拭えなかったんです。
どんなに深くクライアント企業を理解しようとしても、社外の人間であるがゆえに追いきれない部分があるという難しさもありました。
契約書の審査を例に挙げると、その契約がクライアント企業の事業にとってどのような意義や重要性を持つのか、といったことが分からず、形式的な審査にとどまっていたかもしれません。
さらに言えば、その企業にどのような課題があり、法律や法務の観点からどのような解決が目指せるのか。当時はそこまで意識を働かせることができていませんでした。
企業に対して、深く適切なアドバイスができる弁護士になるために、まずは企業そのものにもっと詳しくなりたい。自分自身への強い課題意識から、思い切って退所しました。
在籍期間3カ月、短いですよね。でも、20代は何にも染まっていなくて吸収力が高いからこそ、成長スピードも速い時期。大学とロースクールを経て社会に出た私にとって、この20代のうちに自分が必要だと考える経験を積むことを大切にしたかったんです。
退所するときには後悔は全くありませんでした。
■その時の自分の成長に必要な決断
転職活動で私が重視したのは、経験ある企業内弁護士が1人以上いることでした。
思い切って退所したものの、キャリアとしてはわずか3カ月。弁護士としての知識・経験を得るには、同じ道を行く経験者の方とともに働くことが一番だと考えました。
業界も問わず、幅広く可能性を模索して、ご縁があってIT系の企業に入社することにしました。
決め手の一つになったのは、自分の上司になる女性弁護士の存在ですね。企業内弁護士としてキャリアを歩まれる姿がロールモデルにも見えて、この方の元で経験を積みたいと思いました。
企業内弁護士として働くようになって実感したのは、まさに自分が知りたかった部分もすべて見えるということ。
例えば契約に関しては、法律事務所にいた頃には見えなかった、契約交渉から社内の意思決定、契約締結後の実務の流れなどを間近で学ぶことができました。新規の事業やサービスの立ち上げのプロジェクトでは、様々な部署の方と一緒に事業やサービスを作り上げることを経験し、ビジネスの観点から契約について検討することも学びました。
同じ会社の一員として、社員の皆さんと密にコミュニケーションが取れることも嬉しかったです。
また、私にゼロから法務の仕事を教えてくださった、ベテランの先輩がいます。その方は、他部署の方から「こんなに話しやすい法務の方は初めて」とか、「こんなに愛されている法務部は見たことないよ」と、いつも声を掛けられている方だったんです。
このように、上司や先輩にも恵まれ、「こういう法務パーソンになりたい!」と、強い憧れを抱くとともに、「気軽に相談できる法務」を多くの社員が求めていることに気付かされました。
会社や仕事に不満を感じることはありませんでしたが、コロナ禍を通じて気持ちに変化が生じてきました。
在宅の時間が長くなり、自分と向き合う時間が増えたことで、キャリアについて考える機会も増えました。その中で、自分が企業内弁護士として成長するには、この1社だけの経験では十分ではないと感じるようになってきたんです。
人生の中で、自分の環境を変える挑戦ができるタイミングは少ないと思います。
誰だって居心地の良い場所には、長く居たくなるものです。居心地の良さゆえに、時間が経てば経つほど新しい挑戦をしなくなってしまうこともあります。
「本当にこのままでいいのかな?」と自問自答を続けるうちに、自然と転職へと気持ちが動いていきました。
自分には新しい挑戦が必要だ。
一歩踏み出すなら、今だ。
企業内弁護士、企業の法務部門という軸を変えずに、業界は問わず転職活動をする中で巡り合ったのがシナネンホールディングスでした。
■法務をもっと身近な存在に
シナネンホールディングスが、エネルギーを軸にした企業だと知り、翻って自分がエネルギーのことをあまり意識せずに生活していることに気づきました。そして、人々の暮らしを支えているシナネンホールディングスに魅力を感じました。
創業から90年以上と聞いて、硬いイメージがあったものの、面接では改革を求める社風に良い意味でのギャップを感じ、惹かれた記憶があります。
特に印象に残ったのは、社員中心で変革を進めようとしているということです。自分たちの手で会社の価値を高める企業風土や働き方を模索できるのではないかとワクワクし、入社を決めました。
現在は法務室の所属で、主に契約書の審査・作成や法務相談を担当しています。グループ各社からの相談もあるため、電気、石油、ガス、再生可能エネルギーなど業界特有の法律も多く、入社当時はその幅広さに驚きました。
初めての業界で、初めて触れる分野も多いのですが、その都度、上司を含め法務室の先輩方には助けていただいて、「難しいけれど学べることが楽しい」という思いが強いですね。
まだまだ勉強しながらの身ですが、目下の目標としては、「契約書の相談なら川上さん」と言われるようになること。
契約書は、単に形式的に取り交わされる書類ではなくて、実は困ったときのお守りにもなるものです。合意した内容を的確に記載しておくことでトラブルを防ぐこともできますし、なにか問題が起きた際も解決の拠り所になるものだと思っています。そのため、誰が読んでもわかりやすい契約書を作成するよう心掛けています。
一方で、色々な人の話を伺っていると、法務部門というと、何となく気軽に電話やメールはできないと感じる方も多いようです。きっと「法律に関わる部署」ということで、なんとなく堅いイメージがあって、話しかけにくいのではないかと思います。
ですが、法律に関わることは、小さなリスクがいつの間にか大きくなってしまうこともあります。リスクの芽は小さなうちに潰してしまうのが一番です。社員の皆さんが、不安になったら気軽に相談できる存在であることが、法務部門のあるべき姿だと思っています。
「困ったらまず相談してみよう」。そう思っていただけるくらい、社員の皆さんにとって身近な相談相手になりたいですし、そういうオープンな雰囲気の法務室をつくっていきたいと考えています。
■職人としてのキャリアの築き方
シナネンホールディングスグループの風土改革の本質は「個人の成長」。自身のマーケットバリューを高め、どこに行っても通用する人材を目指すべきだと強調されています。
かつての日本は「総合職」として色々な部署を経験することでキャリアアップをするのが一般的でしたが、今ではキャリアの描き方も多様化しています。
私は企業内弁護士として、企業に寄り添いながら、法律の道を究めていくキャリアが自分に合っていると感じています。言うなれば、「法務の職人」ですね。
少し大きなことを言ってしまうと、企業内弁護士が日本にももっと増えて、いずれ私もその一例として誰かに道を示せるようなキャリアを築けていけたらと思っています。
どのような成長を求めるかは人それぞれ。
そのためにどのような環境を選ぶのかも、自由です。
私は、スペシャリストとしての成長のチャンスを求めて、シナネンホールディングスを選びました。だからこそ、これからも成長には貪欲に、この道を究める経験を積んでいきたいと思っています。
(終)
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